高揚感と気楽さが同居する
センスあふれる空間で繰り広げられるのは
皿の上に描かれたおいしい芸術作品

新しい食のエリアとして勢いのある東麻布にある一軒家レストラン。1Fのバーカウンターやカジュアルなテーブルでは季節の移り変わりを感じながらアラカルトメニューが楽しめる。時折だされる裏メニュー目当ての常連客も多い。
2Fへ上がると一転、高揚感あふれる空間が広がる。高い天井、大きな写真やアート、真っ白なテーブルクロス、壁やベンチシートのパープル使い、毎週金曜日に流れるジャズピアノの演奏、すべては欧米で培った河合シェフのセンスからくる。

青果店を営む家で育ち幼少期から上質で珍しい野菜に親しんできた河合隆良シェフにとって、野菜は不可欠な存在である。すべての皿に共通するのは“生きている野菜”を感じることだ。艶があり噛むごとに本来の味わいを感じる。
この「シーフードと季節野菜のサラダ仕立て シャンパーニュの香り」は、それぞれの食材にあったブイヨン・ド・レギュームと昆布だしで湯がいて休ませるというこだわりよう。ひとつひとつ異なる味の深みや香りに感動すら覚える。

サンフランシスコで腕をふるっていた時、40年前に世界中にスローフードを普及させ、オーガニック料理の母と呼ばれるアリス・ウォータース氏のレストラン「シェ・パニース」を訪れ衝撃を受けた。料理のベースはイタリアンやフレンチ。それを採れたての野菜やハーブをふんだんに使って進化させたものだ。
彼女の発信する「地産地消」「旬の食材を使う」「生産者から直接買う」「大切な人と一緒に食べる」といったメッセージは河合シェフの料理の転機となった。クラシックを学び、ヌーベルキュイジーヌを経験し、開いた新たな世界は新鮮なまま食べるカリフォルニアキュイジーヌ。何十回と彼女の店を訪れて見つけた“自分の舌で味わって心からおいしいと感じるもの”、それが河合シェフの料理だ。

象徴するもうひとつが熟成肉。厳選した赤身の塊肉だけを使い本物の熟成とはこういうものだと感じさせられる。2℃の温度と80%の湿度を保ち、丹念に育てあげた熟成庫でなければできない完璧なる味。じんわりと肉汁が満ち、ほどよい歯ごたえに肉マニアにも深い満足感を与えるだろう。
「おふくろの味にテクニックを加えた料理」とシェフは言う。正統派フランス料理の基礎の上に進化し続ける皿は、ハイクラスでありながらなぜか気が楽になる。何度訪れても新しい発見が尽きない魅力的な店である。
お伝えいただければ幸いです。